私的整理とは?事業再生ADRや特定調停などを分かりやすく比較

私的整理とは?事業再生ADRや特定調停などを分かりやすく比較

私的整理の6種類について、それぞれの特徴や手続きを分かりやすく解説します。
また法的整理との違いについても解説します。

私的整理とは

私的整理は、お金の借り手と貸し手が裁判所外での話し合いによって倒産処理を行う手続きで、法律の制約がないため内容はさまざまです。

一般的な分類としては、一定のルールに基づいて実施されるものを「準則型私的整理」、それ以外を「純粋な私的整理」と括ることがあります。今回は「準則型私的整理」をさらに5つに分類し、「純粋な私的整理」も合わせた合計6種類について説明します。

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準則とは
法的な拘束力のないルールのことで、「法律をどのように解釈するか?」の指針です。つまり準則型私的整理とは、「法的な拘束力のないルール」に基づく私的整理ということです。

① 純粋な私的整理

「準則型私的整理」ではない、その名の通り「純粋な」私的整理です。特定のルールに基づいて実施するわけではないため、その内容は様々です。

ちなみに「純粋な私的整理」という分類は、あとになって作られた言葉です。本来的な私的整理とは、会社と債権者が任意で話し合い、再建計画などについて交渉する手続を指しています。

しかし近年は、後に説明する「私的整理ガイドライン」や「事業再生ADR」などの手続きが整備されたことによって、これら区別するために「純粋な私的整理」と表現するようになりました。

純粋な私的整理では、倒産の事案や担当する弁護士の判断によって進め方が異なりますが、基本的な流れは「返済停止」→「資産評価」→「再建計画の策定」→「債権者の合意」というステップで進みます。

② 私的整理ガイドライン

私的整理ガイドラインとは、2001年に全銀協や経団連等によって定められたガイドラインです。第三者機関ではなく債務者(借り手)と主要債権者(貸し手)によって直接調整を行う方法で、債権者(貸し手)は原則として金融機関を想定しています。

ガイドラインというルールに基づいて実施される手続きのため「準則型私的整理」の一種です。

私的整理ガイドラインによる手続き

  1. 事前相談
    (債務者と主要債権者の事前相談)
  2. 一時停止
    (債権者と主要債権の連盟で債権者全員に一時停止を通知)
  3. 第1回債権者会議
    (債権者による財務状況と再建計画案の説明)
  4. 専門家アドバイザーの調査報告
    (再建計画などの妥当性確認)
  5. 第2回債権者会議
    (再建計画の賛成/反対の期限を決める)
  6. 再建計画の成立
    (対象債権者全員の賛成を得て計画が成立)

それぞれのステップの詳細を知りたい方は、私的整理に関するガイドライン研究会の資料をご覧下さい。
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/news/news170331_3.pdf

このガイドラインに沿って行われる債権放棄は、透明性や公平性が高いとされており、金融機関側の無税償却が認められやすくなります。

無税償却とは
金融機関がお金を貸している企業の財務状況が悪化して債権に損失が見込まれる場合に、その債権の損失額を損金計上し、所得から差し引いて税負担のない方法で処理することです。
ざっくり言うと「金融機関にとってお得」ということです。

③ 事業再生ADR

第三者である紛争解決事業者が調整役を担う倒産処理の仲介手続きで、2007年に制度化されました。

一般的にADR(Alternative Dispute Resolution)とは、「裁判外紛争解決手続」と訳され、訴訟手続をせずに紛争を解決することをいいます。

「紛争」というと、お金の借り手と貸し手が大々的に争うような激しい印象を受けてしまいますが、実際には、利害が対立して同意が難しいケースで普通に用いられる手続きです。

第三者である紛争解決事業者は「特定認証ADR」と呼ばれ、経済産業省によって認定されています。

事業再生ADRは、他の私的整理と同様に、債権者は金融機関を想定しています。

メリット

  • 税負担の軽減
    手続の実施を公表する必要がない私的整理手続きでありながら、債務免除に伴う税負担の無税償却が認められる
  • つなぎ融資の円滑化
    つなぎ融資(一時的な資金繰り融資)に対する債務保証が設定されており、法的整理に移行した際につなぎ融資の債務を優先的に免除することが可能となる

デメリット

  • 債権者全員の同意が必要
    事業再生ADRは対象債権者全員の同意が必要。1人でも反対している場合は特定調停や法的整理に移行することとなる
  • 手続費用が高額
    他の私的整理の手法に比べて高額であることから、事業再生ADRでメリットが得られるのは一定規模以上の企業

手続費用が高額であるだけでなく、多数の金融機関との調整を前提としている手法のため、その点も含めて中堅企業・大企業向きの手法といえます。

④ 支援協議会スキーム

中小企業の私的整理については、いくつかの公的機関がサポートの仕組みを持っています。
その代表格が「中小企業再生支援協議会」です。(以下「支援協」)

支援協は47都道府県の商工会議所等に設置されており、会社の財務状況を支援協に説明することで今後の進め方についてアドバイスを受けることができます。

主な支援内容

  • 弁護士・公認会計士・税理士・中小企業診断士など、事業再生の専門家からのアドバイス
  • 公正中立な第三者機関として債権者との調整をサポート
  • 再建計画や事業改善も含めて専門家がサポート
    (他の私的整理は債務整理することにフォーカスがあたっている)

支援の流れ

  1. 窓口対応
    (ヒアリング・支援の妥当性判断)
  2. 支援開始
    (支援チーム編成、再建計画の検討開始)
  3. 再建計画案の作成
    (事業分析・財務分析、債権者との協議)
  4. 再生計画の成立
    (私的整理の開始、再建計画案の合意)

⑤ その他支援スキーム

中小企業再生支援協議会以外にも、私的整理を支援する団体としては、REVICなどの公的機関があります。

株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)
地域経済の活性化が図られるような中小企業の事業再生を支援

日本弁護士連合会
次の⑥で説明する「特定調停」の手続きを支援

事業再生実務家協会
③で説明した「事業再生ADR」の手続きを支援

詳しく知りたい方は、それぞれの団体に相談してみてくださいね。

⑥ 特定調停

特定調停は、民事調停法の特例として、債務者と債権者の間の利害調整を裁判所が行う裁判手続きの一つです。

他の私的整理手続きでは、訴訟になった場合を除いて裁判所は関与しませんが、特定調停だけは裁判者が調整役となる点が特徴です。

メリット

  • 強制執行の停止措置
    特定調停の申立てとともに「執行停止」の申立てをすれば、裁判所によって債権者からの強制的な取り立てを止められる場合がある
    (他の私的整理手続きでは、執行停止措置はない)
  • 弁護士を通さずに交渉可能
    ほとんどの私的整理は、弁護士などに依頼して進めるが、特定調停では債務者本人が実施可能。債権者との交渉は調停委員に依頼することができる
  • 債権者との合意が必須ではない
    仮に債権者との合意が成立しない場合でも、裁判所が認めることで裁判上の和解と同一の効力が生じる

デメリット

  • 手続きが大変
    裁判所への申立て手続きにあたって、必要書類を用意しなければならないため、他の私的整理よりも手続きが大変
  • 調停が破られた場合の強制執行
    もしも債務者の支払いが遅れるなど特定調停で決めたことを破った場合は、すぐに強制執行が可能となる
    (他の私的整理の合意書は法的拘束力がないため、すぐに強制執行はできない)

特定調整手続きは4ステップ

  1. 申立て
    (債権者に対する調停の申立て)
  2. 第1回期日
    (債務者・債権者の現状確認)
  3. 第2期日以降
    (調書条項案の作成に向けた協議)
  4. 調停調書作成
    (調書条項案に基づいて調書作成)

なお裁判所が関与するという点では、民事再生などの法的整理と似ていますが、特定調停も含めた「私的整理」と「法的整理」の違いは「調整の対象となる債権者の範囲」です。
次で詳しく説明します。

私的整理と法的整理の本質的な違い

法的整理は、法律にのっとって裁判所が強制力をもって借金を整理する手続きです。民事再生、会社更生、特別清算、破産の4種類があります。

→法的整理の詳細を見る

一方の私的整理では、ほとんどの場合に裁判所を介さずに手続きを進めますが、私的整理の一種である「特定調停」では、裁判所が調整を行います。

つまり法的整理と私的整理の本質的な違いは、裁判所を利用するかどうか?という点ではありません。

その違いは「調整の対象となる債権者の範囲」です。

法的整理:取引先も対象私的整理:金融機関のみが対象

法的整理の場合は、金融機関だけでなく、仕入先なども含めてすべての債権者を対象に、借金の支払いや債務カットなどを要請することが法律によって定められています。

一方の私的整理では、基本的に金融機関のみとの交渉となるため、仕入先に知られることなく手続きを進めることができます。
特定調停も金融機関のみとの交渉となります。

もちろん事業を再生したい企業からすると、まずは仕入先を巻き込まずに「私的整理」で済ませたい、と考えると思います。

一方で金融機関側の立場から見ると、同じ債権者なのにどうして仕入先は調整の対象にならず、自分たちだけが損をしなくてはならないんだ?という疑問が生じます。

したがって「私的整理」を選択できるか否かは、お金の貸し手である金融機関のみとの調整が可能な状況にあるか?がポイントになります。

→私的整理と法的整理、どちらを選ぶべき?

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