法的整理とは?民事再生や破産など4つの手続きのメリットや費用を比較

法的整理とは?民事再生や破産など4つの手続きのメリットや費用を比較

法的整理の4種類(民事再生、会社更生、特別清算、破産)について、メリット・デメリットや費用・制約などを分かりやすく解説します。

法的整理とは

法律にのっとって裁判所が強制力をもって債務を整理する倒産処理の手続きです。

私的整理(任意整理)とは異なり、法的整理では仕入先なども含めてすべての債権者を対象に、借金の支払いや債務カットなどを要請することが法律によって定められています。

→私的整理(任意整理)の詳細を見る

法的整理は、再建型と清算型がある

法的整理の手続きは、再建型と清算型に分けることができます。

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再建型

再建型とは、事業の継続を前提とした法的整理手続きです。事業を継続しながら再生計画を進めていきます。
再建型には「民事再生」と「会社更生」の2つがあります。「会社更生」は一部の大企業向けの再建手続ですので、一般的には「民事再生」が利用されます。

清算型

清算型とは、事業をたたむことを前提とした手続きです。企業が倒産した段階で、そのすべての資産を現金に換え、債権者に返せるだけ返して終わりにする、つまり清算してしまおうというものです。したがって再建型とは異なり、会社は消滅します。
清算型には「特別清算」と「破産」の2つがあります。「特別清算」は債務超過(借金が多すぎて返せない状態)の子会社を清算するときに利用されるくらいで、一般的には「破産」の手続きが利用されます。

法的整理の種類は4種類

① 民事再生

民事再生の手続きでは、事業を継続しながら再生計画(確実に債務を返済できそうなプラン)をつくって、債務者や裁判所に認めてもらった後に、再生計画を実行しながら会社の再建を目指します。

特徴

民事再生は、同じ再建型の会社更生と比べて、様々なメリットがあります。

まず「社長の続投」についてですが、会社更生では社長が続投できないのに対して、民事再生では財産管理や業務を社長が続投することができます。

また「期間」や「費用」を見ても、民事再生は短期間で比較的安くできることが多いです。

そして「清算のしやすさ」については、債権者の半分の同意によって進められるため、会社更生よりも同意が得られやすく、清算のしやすい手続きといえます。

民事再生は再建型手続きとして様々なメリットがあることから、倒産処理の手続きとして選択する企業は多いです。

民事再生を行った企業の例

  • タカタ (2017年) ※自動車用安全部品製造大手
  • 森友学園 (2017年)
  • スカイマーク (2015年)
  • リーマン・ブラザーズ日本法人 (2008年)
  • 東ハト (2003年) ※旧法人
  • ライブドア (2002年) ※旧法人
  • そごう (2000年)

※ここでは有名な法人をあげましたが、実際に民事再生を行っているのはほとんどが中小企業です。

民事再生の要件

民事再生に限らず、法的整理を行うということは、裁判所の強制力によって借金や取引先への支払いカットなどを命じることになるため、銀行や取引先への損失をもたらします。

そのため法的整理を利用するには、周囲の企業へ損失を与えるとしても仕方がないほどの状況であることを、裁判所によって認めてもらわなければなりません。どのような企業でも申立てが認めてもらえるわけではないのです。

清算型の法的整理では「会社をたたむしかない」というほど状況がひどくなった際に利用する手続きですが、民事再生の場合は「まだなんとかなる」という状況でも利用できる点が特徴です。

具体的には以下2つのケースが当てはまる場合に民事再生を利用できます。

  • 破産のおそれがある状態
    支払不能・支払停止・債務超過などの状況になるおそれがある状態
  • 債務を完済できない状態
    会社の全財産を処分しても、債務を完済することができない状態

そもそも債務超過とは
貸借対照表の「負債」の総額が「資産」の総額を超えている状態を「債務超過」といいます。 つまり資産をすべて売却しても、負債を返済しきれない状態です。
民事再生法では、貸借対照表上で債務超過であれば債務超過と判断されるのが一般的です。ただし債務超過の原因が一過性のもので、一時的に債務超過に陥っている場合は、債務超過とは判断されません。

手続きと費用

民事再生手続きは、手続き利用開始の申立てによってスタートします。申立ては、民事再生によって事業を再生させたい企業側(債務者)だけでなく、お金を貸している側(債権者)も可能です。

申立てを受けた後、裁判所による「保全・監督命令」が出されます。そうすると債務者も債権者も勝手に財産を処分できなくなります。債権者による強制執行や仮差押、競売なども止めることができます。

保全管理人とは
裁判所による保全・監督命令の際には「保全管理人」が選ばれ、第三者として財産の管理を行います。保全管理人は多くの場合、弁護士が担います。

そして、裁判所による債権者へのヒアリングなどが行われた後、「開始決定」が下されます。その後は、負債確定のための「債権調査」などを経て、「再生計画案の作成」がはじまります。

この段階で債権者の権利が変更されていきますが、傾向としては、担保のない普通の借金であれば80~90%がカットされ、残りの借金の返済期間も5~15年程度と長期におよび、株主の権利にいたっては100%カットされることが多いようです。

手続き費用はざっくり1,000万円

民事再生の申立てをする前に想定しなければならない費用は「予納金」「弁護士などの報酬」「運転資金」の3種類です。

運転資金を除く民事再生の手続きにかかる費用は、事案によって異なりますが数百万円~数千万円、非常にざっくりと捉えたい方は1,000万円規模と覚えてもらえれば良いかと思います。

①裁判所に納める「予納金」
裁判所が、官報を出したり、監督委員へ支払う報酬などの費用です。東京地裁の場合は、負債額5000万円未満は200万円、負債額10億円以上50億円未満は600万円というように、負債額の大きさによって目安があります。

②弁護士などに払う報酬
弁護士の報酬は業種・負債額・債権者数・再生の方法等によって異なりますが、一般的には着手金が予納金と同額~2倍ほど、報酬が着手金と同額以上です。また再生手続のなかで財務関連の資料をつくる際に会計士や税理士の協力が必要となるため、こちらの費用も含めて考える必要があります。ざっくり予納金の半分程度と考えてもらえれば良いかと思います。

③当面の運転資金
手続費用ではないですが、運転資金も確保しておく必要があります。民事再生申立後は信用力が低下して信用取引ができなくなることから、当面の仕入れ・外注費等を即時決済するための資金が必要になります。

② 会社更生

会社更生手続きは、民事再生と同様に事業を継続しながら再生を進める法的整理の手続きです。
日本航空(JAL)に代表されるような大型倒産の場合に利用され、年間で1~2件です。

特徴

会社更生では、社長に代わって管財人が財産管理や業務を担います。これに対して民事再生では、社長が続投できます。

管財人とは
倒産した会社の業務や財産管理を担う人です。産を理するので「管財人」といわれます。管財人が選任された場合は、そのときから会社の代表者が「管財人」に代わってしまうようなものです。
多くの場合は弁護士が担います。保全管理人がそのまま引き継ぐことが多いです。
会社更生手続や破産手続では、必ず管財人が選ばれますが、民事再生では、基本的には「管財人」は選任されません。

また事業再生段階での企業再編のしやすさについて見ると、会社更生では「会社法」で決められた手続きを省略して事業再編や合併をすることができます。この特例は民事再生では認められていません。

上記2点を踏まえると、会社更生は「経営陣を締め出す代わりに、事業再生の手段が豊富」、民事再生は「経営陣の権利は守られるが、手段が減る」と捉えることができます。

続いて利用できる対象者を見ると、会社更生の対象は株式会社に限定されますが、民事再生の場合は株式会社も含めた法人・個人すべてが利用できます。

また費用面や期間を見ると、会社更生は多くの場合で数年間かけて数千万円以上の費用で立て直しを進めます。一方で民事再生は短期間で比較的安くできることが多いです。

こうした点から会社更生は大企業の大型倒産で利用されることが多いのに対して、民事再生は中小企業も利用しやすい手続きとなっています。

会社更生を行った企業の例

  • 武富士 (2010年)
  • 日本航空 (2010年)
  • NOVA (2007年)
  • ハウステンボス (2003年)

会社更生手続きは大型倒産向きであることから、再建型の法的整理では会社更生よりも民事再生の方が利用されることは多いです。

民事再生が毎年200~300件あるのに対して、会社更生はほとんどの年で年間1~2件です。

③ 特別清算

特別清算は、事業をたたむことを前提とした法的整理の手続きです。破産手続きと同様に清算型に分類され、会社の財産を債権者へ平等に分配して手続きを完了させることが目的です。
親会社が子会社を清算する際に利用されるケースが多いです。

特徴

同じ清算型である「破産」と比較した特徴は3つあります。

  • 社長が続投
    特別清算では、会社側が清算人を選ぶことができます。つまり、社長が清算人として業務や財産管理を続投できます。
    一方で破産の場合は、破産管財人に処理をゆだねなくてはなりません。
    また特別清算では、自分で選んだ弁護士を清算人として選ぶこともできます。破産の場合は、知らない弁護士が破産管財人として選ばれます。
  • 早い
    特別清算の場合は、債権者の同意さえあれば柔軟な手続きが可能です。一方の破産では、裁判所が破産法にのっとって厳格に手続きを行うため、それだけ時間がかかります。
    倒産の規模が同じであれば、特別清算の方が破産手続きよりも早く完了する傾向にあります。
  • 安い
    倒産の規模が同じであれば特別清算の方が破産手続きよりも手続き費用が安いです。
    特別清算も破産も裁判所を介して手続きをするため、「予納金」を納める必要があります。
    予納金は、特別清算なら数万円で済む場合もありますが、破産の場合には数十万~数百万円が相場です。

一方で特別清算には制約もあります。

  • 株式会社のみ
    特別清算の対象は株式会社と決められています。そのため有限会社など株式会社以外の法人では破産一択となります。
  • 債権者の同意が必要
    破産手続きでは債権者の同意が必須ではないですが、特別清算の場合は、清算の内容について債権者の同意が必要です。その要件は債権者の1/2に加え、債権総額の2/3です。そのため大口の債権者が多数の株主が反対している場合は清算を進めることができません。

こうした制約から、特別清算は親会社が子会社を整理するときに使われることが多いです。破産の場合は大口債権者が反対する場合もありますが、子会社の場合は親会社が債権の大半を持っているケースが多いためです。

特別清算を行った企業の例

  • パナソニック プラズマディスプレイ (2016年)
    ※パナソニック子会社
  • カシオマイクロニクス (2012年)
    ※カシオ計算機子会社
  • 浜通り旅客運送 (2016年)
    ※旧常磐交通自動車

④ 破産

支払不能や債務超過となっており、債権者の理解を得ることも難しい場合は、破産を選択することになります。

法的整理の9割以上が破産となっており、最も利用されている手続きです。

事業再生の場合は会社を存続させて再生を図りますので、民事再生などの再建型手続きが一般的に利用されますが、会社分割や事業譲渡を行った上で、一部を「破産」によって消滅させる方法もあります。

特徴

破産手続きの特徴は、先述の特別清算における特徴の裏返しとなります。

  • だれでも適用対象
    特別清算を利用できるのは株式会社に限定されますが、破産手続きは法人格に関係なく利用できます。また法人だけでなく個人も利用可能です。
  • 債権者の同意が不要
    破産の場合は、債権者の同意がなくても手続きを進めることができます。

一方で破産の場合には、社長は続投できません。自分の手で事業をたたみたいと思っても、破産管財人に処理をゆだねなくてはなりません。

なお同じ倒産規模であれば特別清算の方が「早い・安い」という傾向が当てはまりますが、破産の場合はほとんどが小規模な倒産となるため、全体として見ると期間や費用に大きな差はありません。

自己破産と破産は何が違う?
みなさんは「自己破産」という言葉を聞いたことがあると思います。
しかし、そもそも「自己」ではない破産などあるのでしょうか。

実は破産手続きというものは、銀行などが貸したお金を回収するために利用する場合があります。お金が返ってこない場合の最後の手段として、裁判所に貸付先企業の破産を申立てるのです。
(ほかの法的整理手続きも債権者から申し立てることができます)

これに対して会社が自ら破産を申し立てるのが「自己破産」というわけです。ただし実際は日本で債権者が破産を申し立てるケースは少なく、ほとんどが自己破産です。

特に、会社ではなく個人が破産対象となる場合に「自己破産」という言葉がよく使われています。

破産を行った企業の例

  • てるみくらぶ (2017年)
    ※格安旅行会社
  • セブンドリーマーズラボラトリーズ (2019年)
    ※全自動衣類折りたたみ機ベンチャー
  • 木乃幡 (2019年)
    ※福島県南相馬市の菓子メーカー

破産の流れ

破産を申し立てると、裁判所の監督の下で財産が全て処分され、債権者に平等に分配されます。これを配当と言います。

全ての財産が処分されて配当が終わると、会社には何もなくなりますので、登記を閉鎖して会社が消滅することになります。

財務状況によっては配当できる財産がないこともあります。その場合は破産手続が終了し、すみやかに会社消滅の手続きへと移ります。

破産手続きによる会社消滅は、具体的には以下の流れで進みます。

  1. 破産申立
  2. 破産手続開始決定
  3. 破産管財人選任
  4. 調査・財団の保全・換価業務
  5. 債権者集会 (複数回)
  6. 債権届出
  7. 債権届出の認否
  8. 配当表作成・配当実施
  9. 終結・廃止決定
  10. 終結の登記嘱託
  11. 会社登記閉鎖

全体を通して数か月程度ですが、場合によっては数年間かかるケースもあります。

「倒産」と「破産」の違いとは?紛らわしい言葉の定義
補足ですが、「倒産」と「破産」は事業再生においては意味合いが異なります。
簡単に解説しておきます。

倒産
倒産には法的な定義がありません。収益悪化によって借金を返せなくなり、事業を継続できない状態を指す言葉として一般的に使われています。

破産
破産は法的整理の手段の一つであり、明確に定義されています。
したがって破産している企業は倒産しているといえますが、倒産した企業が必ず破産しているとはいえません。

経営破綻
倒産や破産と似た言葉として「経営破綻」という言葉があります。経営破綻にも法的な定義はありません。「破綻」という言葉は、「夫婦関係の破綻」などのように表現される通り、物事が立ち行かなくなってしまった状態を指します。そのため経営破綻とは、「経営が立ち行かなくなってしまった」という意味になります。倒産と同じような意味で使われますが、「破産=会社が潰れた」というイメージを持たれることが多いのに対して、「経営破綻=会社が潰れる一歩手前」というイメージでしょうか。

倒産件数の比較

ここまで4種類の法的整理手続きについて説明しましたが、それぞれの件数を見ると、再建型で利用されることが多いのは「①民事再生」、清算型はほとんどが「④破産」となっています。

出所:帝国データバンク「全国企業倒産集計

もちろん事業再生の場合は、会社を存続させることが前提ですので「再建型」が利用されることが多く、基本的には「①民事再生」が利用されます。しかし場合によっては会社を分割してその一部を「④破産」で消滅させる、というやり方もあります。

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