負債カットの手法をわかりやすく解説

負債カットの手法をわかりやすく解説

「負債カット」とは平たく言えば「借金の一部をチャラにする」または「返済を遅らせてもらう」などが「負債カット」です。
しかしお金を貸している側は、借金をチャラにされては困ります。
では、どのような場合に負債カットが成立するのでしょうか?
また、負債カットには具体的にどのような手法があるのでしょうか?

事業再生における「負債カット」

負債カットとはその名の通り、自社にお金を貸している銀行などへ返済する負債額を減らしたり、返済を遅らせてもらう方法のことです。
後で説明しますがデット・エクイティ・スワップ(借金の株式化)などもその手法のひとつです。

債権者(貸し手)から見ると、負債カットをされてしまうと貸したお金の一部が消滅してしまうのですから得な話ではありません。しかし仮に、債権者がお金を貸している企業が破産してしまえば全額損失となります。したがって「借金の一部はチャラにして、事業が立ち直るのを待とう」と考える場合に負債カットが成り立ちます。

そのため負債カットでは、債務者(借り手)が再建計画を作って債権者(貸し手)へ事業再生の道筋を見せながら交渉をしていくことになります。

負債カットと法的整理・私的整理の関係

負債カットの手法は、後ほど説明するように様々ですが、それらの手法を実行する手続きとしては「法的整理手続き」と「私的整理手続き」があります。

法的整理では、民事再生法や破産法などの各種倒産法にのっとって、裁判所が強制力をもって債務を整理します(借金の免除など)。

→法的整理の詳細を見る

一方の私的整理では、お金の借り手と貸し手が裁判所外での“私的な”話し合いによって返済条件の変更や借金の整理を行う手続きを指します。

→私的整理の詳細を見る

負債カットの手法ごとに、法的整理でよく用いられるもの、私的整理で用いられるものがあります。

負債カットの手法6種類

「負債カット」といっても、ただ負債をカットするだけでなく「返済を遅らせてもらう」「負債を資本に振り替える」など様々な手法があります。

こうした負債カットの手法は正式には「デット・リストラクチャリング」と呼ばれます。負債は英語で「デット(Debt)」と言い、負債を減らしたり返済条件を変えるなど「再構築(リストラクチャリング)」しますので、「デット・リストラクチャリング」というわけです。

デット・リストラクチャリング(負債カット)には6つの手法があります。

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6つの手法について説明します。

①リスケジュール (返済条件を変える)

リスケジュールとは、元本の返済猶予や返済期間の延長、返済額の減額などによって債務者(借り手)の資金繰りを改善することです。

私的整理手続きではリスケジュールによる債務整理が大半で、法的整理手続きでも、債務免除と組み合わせてリスケジュールが行われることが多いようです。

②債務免除 (借金を免除してもらう)

債務免除はその名の通り、借金の一部または全部を免除してもらうことです。当然ながら債権者(貸し手)にとっては、貸したお金が戻ってこないので損失は大きくなります。

債務免除は債権者の損失が大きいことから、私的整理ではリスケジュールに比べて実施されることは少ないです。

一方で法的整理の場合は、ほとんどのケースで債務免除が行われます。法人の破産手続きにおいては、破産手続きの終結とともに法人格が消滅し、それに伴い法人の債務負担が消滅することになります。

私的整理における債務免除には2つの種類があります。

直接債務免除

  • 債権者(貸し手)が債務者(借り手)に対して直接債権放棄を行う方式

第二会社方式

  • 事業譲渡や会社分割によって新会社(第二会社)を設立して重要資産を移転させ、旧会社(第一会社)には債務等を残して、あとで旧会社を破産や特別清算によって債務処理を行う方式
  • 債務者である金融機関は、債務者の再建に協力したいと考える一方で、自社の株主などへ配慮する必要があるため、法的整理によることなく債務免除を行うことを躊躇する場合がある
  • これに対して第二会社方式では、新会社(第二会社)での再建を図りつつ、旧会社(第一会社)を破産や特別清算などの法的手続きによって債務免除を行うことが可能となる

③デット・エクイティ・スワップ (借金の株式化)

デット・エクイティ・スワップとは、債務(Debt)を株式(Equity)に交換(Swap)することで、債務を削減する手法です。
略称はDESです。(「デス」と読みます)

債務者(借り手)から見たDESのメリットは、債務を株式化することで借入が減って資本が増えるため、バランスシートが改善される点にあります。バランスシートが改善されると銀行融資を受けやすくなる、などのメリットがあります。またDESによって債権が株式化されるため、債権者に株主として経営に参画してもらうことも可能となります。

それでは、債権者(貸し手)にとってのメリットはあるでしょうか。
DESは、会社の財務状況が悪いときに行われることが多いため、そのような会社の株式を持っていても価値はほとんどありません。

しかし株式化しておくことで、将来的に事業再生に成功した場合は保有株式の価値があがり、株式の売却益や配当収入を得る可能性を残せます。
一方で、債権を放棄されてしまうと貸したお金は戻ってきませんので、DESの方が有利です。

そのため近年は、私的整理において債権放棄よりもDESが選択されるケースが多いです。

ただし債権者が銀行の場合は、発行済株式総数の5%以下しか保有できないルールがあるので、債権全てのDESを行うことは少なく、大部分の債務免除を行った上で、残額についてDESを行うのが一般的です。

 DESには、「現物出資型」と「擬似DES型」の2つがあります。少し難しい言葉が続きますね。ひとつひとつ解説していきます。

現物出資型

  • 通常のデット・エクイティ・スワップのこと。擬似DES型と対比させる形で「現物出資型」と呼ばれる
  • DESの「債務を株式に交換する」というのは、債権者(貸し手)の目線で言い換えると「債権で出資する」ということになる。
    ※債務とはすなわち借金ですので、債権とは「お金を返してもらう権利」です。これを使って株式を取得するため「債権で出資する」ということになります。
  • 債権などの「金銭以外」で出資をすることを「現物出資」と呼ぶため、現物出資型とは「債務を株式に交換する」ということと同義で、通常のデット・エクイティ・スワップを意味する

擬似DES型

  • 「債権」で出資する現物出資型に対して擬似DES型とは、債権者(貸し手)が「現金」を払い込んで債務者(借り手)から株式発行を受け、借り手はこの払い込まれた現金を使って債務を返済すること

「現物出資型」と「擬似DES型」では、実質的に同じようなことをやっていますが、会計や税務上の手続が異なります。

④デット・デット・スワップ (借金の劣後化)

デット・デット・スワップとは、債権を劣後化することです。
「劣後化」とは返済の優先順位を下げるということです。
略称はDDSです。(「ディーディーエス」と読みます)

さきほど説明した通り、DESは「債務(Debt)を株式(Equity)に交換(Swap)すること」です。これに当てはめるとDebt Debt Swapとは、「債権を債権に交換すること」となってしまいます。どういう意味でしょうか。

DDSでは、債権者(貸し手)が既存の債権を返済順位の劣る債権(劣後ローン)に変更します。
この債権は、債務者(借り手)が解散や破産などをした場合に、通常の債権の支払が終わった後に、はじめて支払われるものになります。

DESの場合とは異なり、DDSでは債権がそのまま残ります。そのため借り手は返済義務を負ったままとなります。またバランスシートの改善にもなりにくいため銀行融資の際の信用格付けは変わりません。しかし返済条件が変わることで、実質的には財務状況を改善することができます。

⑤資本性借入 (借金を資本とみなす)

金融機関の中小企業向け債務のうち、“十分な資本性が認められるもの”については、金融検査の際に負債ではなく資本とみなすことができる借入金、すなわち「資本性借入金」とすることができます。
負債ではなく資本とみなす、という点では③のDESと似ています。

資本性借入金という仕組みは2004 年2月に導入され、 2011 年に金融庁がマニュアル整備などを行って積極的な活用を促しており、増加傾向にあります。

DPO (債権を第三者経由で割引購入)

DPOとはDiscount Pay Offの略称です。
Discountとは「割引」、Pay offとは「清算」を意味します。つまり借金を「割り引いて清算する」という意味になります。

DPOとは、債務者(借り手)が、銀行などの債権者に第三者への債権売却を促して、その後に債権を買い取った第三者と交渉して、安く債権を買い取ることで負債を減額する手法です。

つまり債権の流れは、「債務者(例:銀行)」→「第三者(債権回収会社、投資ファンド)」→「自社」となります。

銀行にとっては、いつまで経っても返ってこない債権を持っていても仕方がないので、債権回収会社やファンドなどの第三者へ安く売却することに意味があります。

また債権回収会社やファンドなどは非常に安い価格で複数の会社の債権をまとめて購入するので、債権の全額を回収しなくても利益が出ます。そのため交渉に応じてもらえる場合があります。

 

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