ゼロから学ぶ事業再生の手法と全体像

ゼロから学ぶ事業再生の手法と全体像

事業再生には様々な手法がありますが、種類が多すぎて、難しい言葉も多く、なかなか全体像を体系的に捉えることが難しいものです。
今回は私なりの切り口で、事業再生の様々な手法を図を用いて整理してみました。

事業再生の手法は5種類

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企業が倒産する原因は、基本的に「資金の不足」によるものです。場合によっては後継者不足や法律違反による営業停止命令などで倒産にいたるケースもありますが、多くは事業の収益性が改善されずに資金が枯渇してしまうことで倒産にいたります。

したがって事業再生では、倒産を防ぐための「資金確保」が最優先事項となります。何よりもまずコスト削減などの資金流出防止策に取り組み、必要であれば負債カット(借金の返済免除など)も実施する必要があります。また並行して銀行からの借入交渉など資金調達の手続きや、資産売却も進めなくてはいけません。

そして危機を脱した状態で売上拡大などの成長段階へ移行していきます。この優先順位を誤ってはいけません。「売上拡大」は、施策を打ってから効果が現れるまでに一定の時間を要しますし、売上が計上されてから入金されるまでにタイムラグの生じる業態もあります。
(小売業や飲食業のような日銭を稼ぐ業態では売上計上と入金が同じタイミングですが、製造業や法人向けサービスなどでは受注~請求~入金に一定の時間がかかります)

これらの優先順位を人間で例えるならば、血液が不足して死にそうな人にはまず止血、そして輸血です。「肉や魚を食べさせて足りない血液を補おう」などと悠長なことを考える人はいないでしょう。

そしていずれの手法でも事業継続が困難だと思われる場合は、倒産処理が必要となります。

5つの手法を、「運転資金の確保」という視点で整理したのが次の図です。

ひとつひとつ簡単に説明します。

①負債カット

負債カットはその名の通り、自社にお金を貸している銀行などへ返済する負債額を減らすことで、資金流出を抑える方法です。平たく言えば「借金の一部をチャラにする」または「返済を遅らせてもらう」などの方法が負債カットです。

参考:負債カットの手法

②資金調達

資金調達にはいくつかの種類があります。1点目は銀行などからの「借入」、2点目は株主からの「出資」、3点目が「社債の発行」です。社債とは企業の借金証明書のようなもので、社債を購入した投資家には利息とともに投資金額が返済されます。社債は株式では無いので経営権に影響はありません。1点目の「借入」と2点目の「出資」の中間的な存在と言えるでしょう。 その他の資金調達方法として、売掛債権を現金化する「ファクタリング」や「ABL」、民事再生に入った企業でも資金調達が可能な「DPOファイナンス」 、そして「補助金・助成金」や「クラウドファンディング」などが活用できる場合もあります。

参考:資金調達の手法

③収益改善

収益は、売上と費用に分解されますが、事業再生の局面では即効性の高い費用削減の施策が重視されます。先ほども延べた通り売上拡大は、施策を打ってから効果が現れるまでに一定の時間を要するためです。例えば無駄な残業を減らすことは今日からできますが、販売促進をしてお客さんが増えるまでには一定の時間を要します。

④M&A・資産売却

M&Aとは「Mergers(合併)」と「Acquisitions(買収)」の略称で、事業や企業の買収(売り手から見れば「売却」)のことを指します。売上拡大のために企業を買収するM&Aもありますが、ここでは不採算事業の売却や経営継続のために別の企業の傘下に入る場合などを指します。
また資産売却は、建物や知的財産などを他社へ売ることを指します。M&Aに比べるとハードルは低いといえます。

⑤倒産処理

倒産とは、借金を返せずに事業を継続できない状態です。事業継続ができないのでどうしようもないのですが、この状態をどうにかするのが「倒産処理」です。倒産処理には裁判所を利用する「法的整理」と裁判所を利用しない私的整理があります。法的整理には、再建型と言われる「民事再生」などの方法と、清算型と言われる「破産」や「特別清算」などの方法があります。

参考:倒産処理の基本私的整理法的整理

どの手法を選択すべきか?

ここまで、事業再生では様々な手法があることを説明してきました。
では、具体的にどのような手法を選択すれば良いでしょうか。

これは企業のステージによって変わります。早い段階で倒産リスクを検知できれば、様々な手法を組み合わせることで事業を立ち直らせることができます。しかし企業は営業を続けている限り費用も発生しますし、借金の返済期限も近づいてきます。そのため「まだ大丈夫だ」と思って決断を先延ばしにすることで運転資金は枯渇していき、できることも限られてきます。

そのため事業再生において重要なことは「初動のスピード」です。倒産のリスクを早く検知して、すぐに決断して対処していくことが再生の成否を握ります。

田作朋雄『事業再生』を参考に筆者作成

一般的に事業再生が必要となるケースでは、赤字が続いて債務超過に陥っているケースが多いため、収益改善だけでは不十分です。したがって負債カットや資金調達などで財務状況を改善し、場合によっては資産売却による追加の資金確保を目指します。

また特定の不採算事業が足かせとなっている場合はM&Aによる事業売却も選択肢に入れなくてはなりません。

それでも事業継続の見通しが立たない場合は、企業本体の売却や倒産処理など、限られた選択肢から打ち手を選択することになります。

まずは財務状況をきちんと把握して、企業のステージに応じた適切な打ち手を早い段階から実施していくことがポイントになります。

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